情動調整(感情のコントロール)に役立つ【ボディ・リテラシー】―思考、記憶、感情を通して自分の身体を認識することの大切さ
エレイン・ミラー-カラス著
キーポイント
• ボディ・リテラシーとは、身体の内側から発せられる感覚に同調するスキルのこと
•ボディ・リテラシーは、神経系が思考や感情にどのように反応するかを理解することも含まれる
•感覚的な気づきが広がると、情動調整(感情のコントロール)が強化され、より深いウェルビーイングの状態を培うことができる
ボディ・リテラシーとは、自分の身体から生じる感覚に気づくスキルを身につけることです。子どもの頃に読み書きを学ぶのと同じように、身体感覚に注意を向ける能力を身につけることで、「身体感覚」が私たちの日々の決断や行動にどのような影響を与えているかを読み解くことができるようになります。Gendlin(2007)が述べているように、人は思考や記憶、良く知っている感情からなる層の下にある、自らの生身の身体(の感覚体験)を直接的に知覚することが可能です。これらの感覚に気づくことで、Gendlinが「意味の身体感覚」と呼ぶ、日常的な経験に関する身体感覚に基づいた情報に、意識的にアクセスできるようになります。
雪の降る中、Tシャツ一枚で屋外に出ることを想像してみて下さい。あなたは当然、寒さと不快感を感じ、暖を求めて屋内に入り、分厚いジャケットを着て、より快適な気分で外に戻ろうと思うでしょう。同じように、個人的な課題や世界中で起こっている様々な問題のために苦しく悩ましい感情に直面したとき、私たちはその苦悩を思考や感情だけでなく、身体感覚によっても察知することができるのです。心拍数が速くなったり、呼吸が浅くなったり、筋肉が緊張したり、ひたひたと忍び寄る不安をなんとなく感じたりするかもしれません。このような感覚を和らげるために、友人に電話したり、のんびり散歩をしたり、場合によっては依存物質に頼ろうとしたりすることがあるかもしれません。これらの反応には、健康的な対処法の他、過度の飲酒のような不健康なものまで様々なものが見られます。
苦痛とウェルビーイングの感覚を区別することを学ぶ
ボディ・リテラシーとは、神経系が私たちの思考や感情にどのように反応するかを理解することであり、私たちの感情や記憶、思考に関連する快・不快・どちらでもなく中立の感覚を区別することを可能にするものです。この区別によって、何に焦点を置くか意識的に選ぶことができるようになります。例えば怒りを感じたとき、「上司に怒鳴られたときはとても "カーッと(熱く) "なって、"冷静になる "のが大変だった」と言う人がいるかもしれません。自分自身に語りかけて怒りをコントロールしようとしても、必ずしも効果があるとは限りません。しかし、より心地よい感覚や中立的な感覚に注意を向けることを学ぶと、感情をうまくコントロールでき、心拍数が落ち、呼吸は深くリラックスし、体温が下がり、筋肉の緊張が和らぐという特徴を持つ、ウェルビーイングな状態に戻ることができます。思考や感情と密接に結びついたこれらの身体感覚は、日々生じる様々な経験を乗り越えていくために有益かつ豊富な情報を提供してくれます。感覚的な気づきが広がれば、感情をコントロールする力が強化され、より深いウェルビーイングの状態を培えるようになります。
島皮質という脳の部位は、痛みやかゆみ、体温といった身体の状態を解釈し、心と身体のコミュニケーションを円滑にする上で重要な役割を果たしています。島皮質はこれらの情報に基づいて大脳皮質に信号を送り、それによって体内バランスを保つための行動を促します。Farb (2015)が指摘するように、身体の内側からの信号を感知する能力は、私たちの身体感覚、意欲、そして全体的なウェルビーイングにとってなくてはならないものなのです。
自分ではどうしようもできない山あり谷ありの日々の中でも、次のことを心に留めておくのはとても大切です。それは、私たちが持って生まれた、意欲を高め、気分を快適にしてくれるものに関連する感覚とつながるための力です。知り合いと交わす親しみのこもった挨拶、大切な人からの思いやりを感じるしぐさや温かい抱擁など、こうした瞬間一つひとつから、腑に落ち身体化されたウェルビーイングが育まれていくのです。
ボディ・リテラシーを身につけるための簡単なステップ
- ステップ1:日常生活の中で、感覚を表現する語彙を増やすことから始めましょう。手を洗う、シャワーを浴びる、皿洗いをする、ようなときに経験する感覚によく注意を向けてみます。水の温かさ、ぬるさ、冷たさなどに気づき、これらの感覚が心地よいものか、不快なものか、あるいはどちらでもない中立的なものか吟味してみましょう
- ステップ2:日常的に毎日していることで、心地良いことに関連する感覚に注意を向けてみましょう。例えば散歩をする習慣があれば、歩きながら、周囲の環境、音、匂いや、豊さに包まれるようなイメージに気づいてみます。そして、内側で何が起きているかに意識を向けてみましょう。心地よい感覚や中立的な感覚に意識を向けます
- ステップ3:身の回りで元気や力を与えてくれる人、動物、場所、物事を一つ思い浮かべてみましょう。あなたが今思い浮かべた、自分を元気にしてくれるものと結びついている身体感覚に気づきます。例えば、親友が元気づけてくれるなら、その親友のことを考えるうちに、身体がゆるみ、呼吸が深くなることで、ウェルビーイングな身体感覚に気づくかもしれません。ボディ・リテラシーを身につけるには、このように自分のリソース(宝・資源、元気や勇気をくれる人やものなど)と結びついた感覚に意識を向け、それが自分の腑に落ち、身体化される経験を味わうことが不可欠です
- ステップ4:不快な感覚に気づいたら、心地よい感覚や中立的な感覚に注意を移す練習をすると、より安全に取り組めるでしょう。場合によっては、不快な感覚を抜け出して再びウェルビーイングの状態に戻るために、ステップ3で思い浮かべたような、リソースを何かひとつを思い出して、心地よい感覚に意識を振り向けなおすと良いでしょう
引用文献
Gendlin, E. (2007). Focusing. New York: Bantam Books.
Farb, N., Daubenmier, J., Price, C. J., Gard, T., Kerr, C., Dunn, B. D., Klein, A. C., Paulus, M. P., & Mehling, W. E. (2015). Interoception, contemplative practice, and health. Frontiers in Psychology, 6, 763.
原文
Body Literacy Helps to Regulate Emotions
We perceive our body though our thoughts, memories, and feelings.
Psychology Today (Posted December 24, 2023) https://www.psychologytoday.com/intl/blog/building-resiliency-to-trauma/202312/body-literacy-helps-to-regulate-emotions
*この投稿は、上記原文を西村萌子(Center for HEART)が翻訳したものです*